1 五苓散:ごれいさん
<出典> 傷寒論・金匱要略
<時代> 漢時代
<生薬> 沢瀉 茯苓 猪苓 白朮 桂枝
<証> 虚証~実証 裏証 熱証 水毒
五苓散は文字どおり5つの生薬で構成されています。
水毒に対する代表的な漢方薬で使用頻度もきわめて高いです。
神経由来の痛みにも有効です。
また、二日酔い(東洋医学では水毒)にも有効なので、飲みすぎることが多い人には常備することをおすすめします。
沢瀉、茯苓、猪苓、白朮は水毒に有効です。
茯苓、白朮には消化機能促進作用があります。
桂枝は気の運行を改善する作用があります。
浮腫や下痢は水毒であるため、これらに対する第1選択となります。
2 猪苓湯:ちょれいとう
<出典> 傷寒論・金匱要略
<時代> 漢時代
<生薬> 沢瀉 茯苓 猪苓 阿膠 滑石
<証> 虚証~実証 裏証 熱証 水毒
猪苓湯は五苓散の白朮、桂枝のかわりに阿膠と滑石が入った漢方薬です。
阿膠は止血作用があり、滑石は冷やす作用や消炎作用があるため、五苓散より炎症に有効です。
具体的には膀胱炎に有効です。
沢瀉にも冷やす作用があります。
茯苓は消化機能を改善する作用があります。
阿膠は体内で不足した水分を補う作用があります。
3 小柴胡湯:しょうさいことう
<出典> 傷寒論・金匱要略
<時代> 漢時代
<生薬> 柴胡 黄芩 半夏 生姜 大棗 人参 甘草
<証> 虚証~中間証 裏証(正確には半表半裏) 熱証
小柴胡湯は柴胡剤といって柴胡を主薬とする漢方薬の基本で、気逆に有効です。
柴胡剤は、胸脇苦満といって、胸の脇が重苦しく、脇になにか詰まっている感じや肋骨の下あたりに違和感のような鈍痛がある症状に有効です。
寒熱往来といって悪寒と発熱が交互に現れる症状にも有効です。
イライラにも有効です。
柴胡、黄芩は胸脇苦満に有効なほか、熱を冷ます作用もあります。
半夏は悪心や食欲不振に有効です。
人参は虚証に有効です。
4 柴苓湯:さいれいとう
<出典> 得効方
<時代> 元時代
<生薬> 柴胡 黄芩 半夏 生姜 大棗 人参 甘草 沢瀉 茯苓 猪苓 白朮 桂枝
<証> 虚証~中間証 裏証(正確には半表半裏) 熱証 水毒
柴苓湯は小柴胡湯と五苓散を合わせた漢方薬です。
小柴胡湯は胸脇苦満やイライラを良くする漢方薬で、五苓散は水毒を良くする漢方薬ですので、この2つの漢方薬の合方である柴苓湯も同じ効果があります。
5 柴胡加竜骨牡蛎湯:さいこかりゅうこつぼれいとう
<出典> 傷寒論
<時代> 漢時代
<生薬> 柴胡 黄芩 半夏 生姜 大棗 人参 桂枝 茯苓 竜骨 牡蠣
<証> 虚証~中間証 裏証(正確には半表半裏) 熱証 気鬱
柴胡加竜骨牡蛎湯は小柴胡湯に桂枝、茯苓、竜骨、牡蠣を加えた漢方薬です。
小柴胡湯は胸脇苦満、イライラに効きます。
柴胡加竜骨牡蛎湯は安神作用といって、イライラ、不安、不眠、動悸に効く漢方薬です。
竜骨、牡蠣には強い安神作用があります。
茯苓にも水毒に有効なほか、安神効果もあります。
竜骨は不眠に効果があります。
桂枝はのぼせを改善する効果あります。
6 四逆散:しぎゃくさん
<出典> 傷寒論
<時代> 漢時代
<生薬> 柴胡 芍薬 枳実 甘草
<証> 虚証~実証 裏証(正確には半表半裏) 熱証 気鬱
四逆散は柴胡剤の1つです。
四逆散は、作用が穏やかで副作用の少ない漢方薬です。
手足厥冷といって手足が少しだけ冷たい症状にも有効です。
四逆散は、気鬱に有効です。
気鬱は気が流れづらくなることであり、これにより不通則痛となり痛みが発生します。
気が流れづらくなる部位は肝、脾、胃で、そのため、肝から両脇が痛くなり、脾から腹部が痛くなり、胃周辺が痛くなります。
イライラや熱感にも有効です。
芍薬は痛みに有効です。
枳実も胸脇苦満を改善します。
7 加味逍遥散:かみしょうようさん
<出典> 和剤局方
<時代> 宋時代
<生薬> 柴胡 芍薬 甘草 白朮 茯苓 当帰 乾姜 薄荷 牡丹皮 山梔子
<証> 虚証~中間 裏証(正確には半表半裏) 熱証 気逆 水毒
加味逍遥散はイライラするなど気逆に対する最も有名な漢方薬です。
冷のぼせ(上熱下寒=上半身はのぼせて暑いが下半身は冷える状態)にも有効です。
女性にも非常に効果があります。
特に、月経不順、更年期障害など女性ホルモンに影響されている状態に奏効することがあります。
瘀血を改善する駆瘀血剤の1つですが、虚証用であるあるため瘀血を改善する効果もあまり強くはありません。
僕が2番目に多く使う漢方薬です。
白朮と茯苓は水毒に有効です。
白朮は消化機能の改善にも有効です。
当帰と牡丹皮は瘀血に有効です。
乾姜は温める作用があります。
柴胡、山梔子、薄荷は上部の熱を冷ます作用があります。
8 抑肝散:よくかんさん
<出典> 保嬰撮要
<時代> 宋時代
<生薬> 柴胡 甘草 白朮 茯苓 当帰 川芎 釣藤
<証> 虚証~実証 裏証(正確には半表半裏) 熱証 気逆 水毒
抑肝散は肝が亢進している状態である「怒っている・怒りやすい状態」を改善する鎮痛・鎮痙効果に優れた漢方薬です。
抑肝散は痙攣に有効であり、小児のひきつけや大人の各種の痙攣に有効です。
イライラ、不眠にも有効です。
柴胡は胸脇苦満を改善します。
釣藤は鎮静・鎮痙効果があります。
白朮、茯苓は水毒に有効です。
茯苓には鎮静効果があります
当帰、川芎は血虚に有効です。
9 桃核承気湯:とうかくじょうきとう
<出典> 傷寒論
<時代> 漢時代
<生薬> 大黄 芒硝 甘草 桃仁 桂枝
<証> 実証 裏証 熱証 気逆 瘀血
桃核承気湯は、かなり強力な駆瘀血薬で、瘀血による痛みに対する作用もかなり強力です。
ですが、強すぎる漢方薬でもあるため虚証や中間証には使うことができず、実証限定です。
便秘は、癌など物理的な障害で便が出づらい場合以外は東洋医学では瘀血と考えます。
桃核承気湯は駆瘀血作用が強力ですので、こういった便秘にかなり有効です。西洋医学の下剤と比較し「気持よく」便が出ます。
作用が強すぎるために反対に下痢となることもあります。
生理痛も東洋医学では瘀血に該当するため、桃核承気湯は生理痛にも有効であすが、実証限定です。
なお、虚証の便秘や生理痛には、加味逍遥散や桂枝茯苓が、中間証には治打撲一方をお勧めします。
桃仁は破血作用(血腫・血栓を溶解する作用)があり、瘀血にかなり有効です。
桃仁は通便作用もあります。
大黄は破血作用があり、桃仁の瘀血作用を増強します。
芒硝は乾燥している腸を潤す作用があり、便を軟らかくすることができます。
桂枝はのぼせを改善します。
10 通導散:つうどうさん
<出典> 万病回春
<時代> 明時代
<生薬> 大黄 芒硝 枳実 厚朴 甘草 当帰 紅花 蘇木 木通 陳皮
<証> 実証 裏証 熱証 気鬱 瘀血
通導散は、かなり強力な駆瘀血薬で、破血作用は最強です。
強すぎる漢方薬ですので虚証や中間証には使うことができず、実証限定です。
実証の便秘や生理痛に極めて有効です。
打撲などのケガの痛みや内出血にもかなり有効です。
大黄は破血作用があります。
当帰は瘀血を改善します。
紅花は破血作用があるほか、鎮痛作用もあります。
蘇木はケガによく使用され、瘀血に有効なほか、止血作用、鎮痛作用があります。
木通は消炎作用、利尿作用があります。
陳皮、枳実、厚朴は気鬱に有効です。
11 防風通聖散:ぼうふうつうしょうさん
<出典> 宣明論
<時代> 金時代
<生薬> 大黄 芒硝 甘草 麻黄 石膏 生姜 白朮 当帰 川芎 芍薬 薄荷 連翹 荊芥 防風 黄芩 山梔子 滑石 桔梗
<証> 実証 裏証 熱証 瘀血 水毒
防風通聖散は、ある程度強力な駆瘀血薬です。
ある程度強いため、実証限定です。
太鼓腹の肥満症の改善に使用されることがありますが、ある程度強力な駆瘀血剤であるため、体調を崩すこともあり、安易な使用は勧めません。
甘草 麻黄 石膏 生姜 白朮は越婢加朮湯から大棗を除いたものであり熱証+水毒に有効です。
薄荷、連翹、荊芥、防風は皮膚疾患に有効です。
薄荷、連翹、滑石は消炎作用があります。
黄芩、連翹は解毒作用があります。
滑石や桔梗は、水毒に有効です。
石膏、大黄、黄芩、山梔子、滑石は冷ます作用があり、熱証に有効です。
石膏は口渇にも有効です。
大黄、芒硝は瀉下作用があり、便通を改善します。
当帰、川芎、芍薬は血虚に有効です。
白朮は消化機能を改善します。
12 黄連解毒湯:おうれんげどくとう
<出典> 外台秘要
<時代> 唐時代
<生薬> 黄芩 黄連 黄柏 山梔子
<証> 実証 裏証 熱証
黄連解毒湯は、熱を持った皮膚疾患の基礎となる漢方薬です。
黄連解毒湯に種々の生薬を加え、いくつかの漢方薬が作られています。
黄連解毒湯は、体の上部の充血をとる作用があり、またイライラ、不眠など精神を鎮静させる作用があります。
なお、毒とは熱証が著しいことを意味します。
赤ら顔で高血圧の人に良く使用されます。
黄連は清熱剤といい冷ます作用があり、かつ強力で、消化器の熱に有効です。
黄芩の清熱作用はやや弱いですが、肺の熱に有効です。
黄柏の清熱作用は中程度ですが、膀胱など泌尿器疾患の熱に有効です。
山梔子は水毒に有効なほか、止血作用があります。
以上より、黄連解毒湯は、熱と水毒が原因(湿熱といいます)の脳炎、下痢、肺炎、膀胱炎、皮膚疾患、出血疾患に使用されます。
13 温清飲:うんせいいん
<出典> 万病回春
<時代> 明時代
<生薬> 黄芩 黄連 黄柏 山梔子 当帰 川芎 芍薬 地黄
<証> 虚証~中間証 裏証 熱証 血虚 乾燥
温清飲は、黄連解毒湯と四物湯を合わせた漢方薬です。
黄連解毒湯は、裏熱で実証に対応し、四物湯は、裏寒の虚証の血虚に対応しますが、合方である温清飲は、裏熱の虚証の血虚に対応します。
温清飲は、血の鬱滞がある、赤みのある皮膚病に用いられます。
温清飲は、乾燥に有効で、カサカサの皮膚に使用されます。
水毒には有効ではないため、分泌液の多い湿疹には不向きです。
14 荊芥連翹湯:けいがいれんぎょうとう
<出典> 森道伯一貫堂方
<時代> 現代
<生薬> 柴胡 黄芩 黄連 黄柏 山梔子 当帰 川芎 芍薬 地黄 薄荷 連翹 荊芥 防風 白芷 桔梗 枳殻 甘草
<証> 虚証~中間証 裏証 熱証 血虚 水毒
荊芥連翹湯は、黄連解毒湯に四物湯を加えた温清飲に種々の生薬を加えた漢方薬です。
荊芥連翹湯は、血の鬱滞があり、赤黒い皮膚病に用いられます。
荊芥、防風、薄荷、連翹は皮膚疾患に有効です。
白芷は鎮痛作用のほか、水毒に有効で、排膿作用もあり、鼻づまりにも有効です。
薄荷も鼻づまりに有効です。
桔梗は水毒に有効なほか、排膿作用があります。
柴胡と枳殻は気鬱に有効です。
15 清上防風湯:せいじょうぼうふうとう
<出典> 万病回春
<時代> 明時代
<生薬> 黄芩 黄連 山梔子 薄荷 連翹 荊芥 防風 白芷 桔梗 川芎 枳実 甘草
<証> 中間証~実証 裏証 熱証 水毒
清上防風湯は、上半身の皮膚疾患に有効な漢方薬です。
詳しくは上焦の熱を清することから、この名前がつきました。
黄連解毒湯は黄芩、黄連、山梔子に加え黄柏から構成されますが、清上防風湯ではこの黄柏が除かれています。
これは黄柏は下焦に作用し、下半身に作用するため、上半身を目標とした清上防風湯からは除かれています。
薄荷、連翹、荊芥、防風は皮膚疾患に有効です。
黄芩、黄連、山梔子、連翹は熱を冷ます作用があります。
山梔子は水毒に有効です。
白芷は鎮痛作用、排膿作用があり、水毒にも有効なほか、痒みにも有効です。
桔梗は水毒のほか、排膿作用があります。
川芎は瘀血を改善します。
枳殻は気鬱に有効です。
16 竜胆瀉肝湯:りゅうたんしゃかんとう
<出典> 薛氏十六種
<時代> 明時代
<生薬> 竜胆 黄芩 山梔子 車前子 沢瀉 木通 当帰 地黄 甘草
<証> 中間証~実証 裏証 熱証 水毒
竜胆瀉肝湯は、目の疾患や、中耳炎・耳鳴り・難聴、蓄膿症のほか、陰部の皮膚疾患に有効な漢方薬です。
竜胆瀉肝湯は、消化機能が低下している場合には注意を要し、長期にわたる服用も望ましくない。
竜胆、黄芩、山梔子は冷ます作用があります。
車前子、沢瀉、木通、山梔子は水毒に有効です。
特に、車前子、沢瀉、木通は下焦に効き、泌尿器系に有効です。
当帰、地黄は血虚に有効です。
17 麦門冬湯:ばくもんどうとう
<出典> 金匱要略
<時代> 漢時代
<生薬> 麦門冬 半夏 人参 大棗 粳米 甘草
<証> 虚証~実証 裏証 熱証 乾燥
麦門冬湯は、空咳など喉が乾燥している状況に有効な漢方薬です。
麦門冬湯は、慢性の肺疾患にも使用されます。
麦門冬には、肺と喉を潤す作用があります。
人参、甘草、大棗、粳米は消化器の機能を改善します。
半夏は咳を止める作用があります。
18 六味丸:ろくみがん
<出典> 銭仲陽
<時代> 宋時代
<生薬> 熟地黄 山薬 山茱萸 茯苓 沢瀉 牡丹皮
<証> 虚証~中間証 裏証 熱証 乾燥 腎陰虚
六味丸は、腎陰虚に対する漢方薬です。
「腎」とは西洋医学の腎臓ではなく、「成長する力・生命力・精力」などを意味します。
腎陰虚はその腎と水分が不足した状態です。
これは陰虚火旺といって、腎陰が不足して虚熱が出る状態に陥ります。
というわけで、六味丸は、虚熱の熱証と陰虚による乾燥した状態に対し処方されます。
腎陰虚の症状は、足腰がだるい、骨粗鬆症、めまい、耳鳴り、健忘、のぼせ、盗汗(寝ている間に汗が出て、目が覚めると止まる)、微熱(陰虚火旺による)、口渇、頻尿です。
六味丸は6つの生薬で構成され、熟地黄、山茱萸、山薬は補薬であり、種々の状態を補います。
沢瀉、牡丹皮、茯苓は瀉薬であり、尿などとして体外に排出することにより症状を改善します。
つまり六味丸は、出しながら補う漢方薬です。
熟地黄、山薬、山茱萸は強壮作用があるほか、潤す作用があり、乾燥に対して使用されます。
茯苓と沢瀉は水毒に対して使用されますが、六味丸は全体としては潤性であり、乾燥に対して用いられます。
熟地黄、山茱萸は温める作用がありますが、沢瀉や牡丹皮は冷やす作用があり、全体としては冷やす作用が勝るため、熱証に用いられます。
牡丹皮、熟地黄は瘀血に対して有効です。
山薬はすべての虚証に有効です。
やや専門的にいうと・・・
肝を山茱萸が補い、牡丹皮が瀉します。
腎を熟地黄が補い、沢瀉が瀉します。
脾を山薬が補い、茯苓が瀉します。
ちなみに六味丸に桂枝と附子が加わったものが裏寒12で紹介した八味地黄丸であり、八味地黄丸は寒証+乾燥に使用されます。
芍薬甘草湯:しゃくやくかんぞうとう
<出典> 傷寒論
<時代> 漢時代
<生薬> 芍薬 甘草
<証> 虚証~中間証
芍薬甘草湯は、その名前どおり芍薬と甘草の2つの生薬で構成されます。
芍薬甘草湯はこむらがえりに効くことで有名ですが筋肉の痙攣による痛みに効く漢方薬です。
しかし、甘草の量が多いため、漢方薬の副作用の1つである偽性アルドステロン症を最も多く発症する漢方薬でもあるため、特に高齢の方は常用ではなく、頓服にすることが望ましいです。