1 桂枝湯:けいしとう
<出典> 傷寒論
<生薬> 桂枝 芍薬 生姜 大棗 甘草
<証> 虚証 表証 寒証
桂枝湯は、『傷寒論』という漢方薬の原典ともいえる書物(約1800年前)の最初に出てくる漢方薬で、漢方薬の基本ともいえる漢方薬です。
桂枝湯は、寒気があり、すでに汗が出ており、虚証の場合に用います。
桂枝はシナモンのことですが、軽い発汗作用、体を温める作用、心悸亢進を鎮める作用があります。
芍薬は、痛みや痒みを鎮める作用があります。
また、桂枝によって汗が出すぎることを緩和します。
大棗と生姜(しょうきょうと読みます)は副作用を抑える作用があります。
また、生姜は温める作用もあります。
甘草も副作用を抑える作用があります。
というわけで、桂枝湯は、虚証で、風邪など熱が急性に出てきた状態で、悪寒を伴う場合に使用します。
また、寒気がある関節痛にも用いられます。
2 桂枝加朮附湯:けいしかじゅつぶとう
<出典> 吉益東洞の経験方
<生薬> 桂枝 芍薬 生姜 大棗 甘草 蒼朮 附子
<証> 虚証~中間証 表証 寒証 水毒
名前のように、桂枝湯に蒼朮と附子を加えた漢方薬です。
虚証用の漢方薬である桂枝湯をベースにしていることからも、桂枝加朮附湯は虚証用の漢方薬になります。
蒼朮は水毒に対して使用される生薬で、附子は寒証に対して使用される生薬です。
従って桂枝加朮附湯は虚証+寒証+水毒に対応する漢方薬となります。
また、附子は強力な鎮痛作用があります。
芍薬も、痛みを鎮める作用があります。
従って、桂枝加朮附湯は痛みにも効きます。
なお、上肢に作用のある桂枝が入っているため、虚証の上肢の痛みに対し第1選択となります。
という訳で、桂枝加朮附湯は、上半身の関節・筋肉の痛みで、寒いと増悪し、むくんでいる場合に効果があります。
3 麻黄湯:まおうとう
<出典> 傷寒論
<生薬> 麻黄 杏仁 甘草 桂枝
<証> 実証 表証 寒証
麻黄湯は、一言でいうと、汗を出し、体温を上げることにより風邪などを治す漢方薬です。
強力な漢方薬なので実証にしか使うことができません。
汗を出す作用もかなり強いため、汗が出やすい人(虚証となります)には使わない方が無難です。
麻黄は桂枝より温める作用が強く、また汗を出す作用も強力です。
麻黄は咳を止める作用もあります。
麻黄に加えて桂枝が入っているため、これらの作用は増強されます。
杏仁にも咳を止める作用があります。
風邪のほか、インフルエンザにも著効するため、東洋医学ではインフルエンザに対する第1選択です。
なお、麻黄湯は長期間にわたり内服する漢方薬ではありません。
4 麻黄附子細辛湯:まおうぶしさいしんとう
<出典> 傷寒論
<生薬> 麻黄 附子 細辛
<証> 虚証~中間証 表証 寒証
麻黄附子細辛湯は、虚証で、あまり高くない熱がある状態に使用する漢方薬です。
麻黄に加え、寒さ・痛みに有効な附子が入っています。
また、細辛も寒さ、痛みに効果があります。
これらから頭痛やのどの痛みにも効果があります。
という訳で、麻黄附子細辛湯は、虚証+表証+寒証+頭・のどの痛みに対する漢方薬です。
5 葛根湯:かっこんとう
<出典> 傷寒論
<生薬> 麻黄 葛根 桂枝 芍薬 生姜 大棗 甘草
<証> 実証 表証 寒証
葛根湯は、桂枝湯に麻黄と葛根を加えた漢方薬です。
葛根湯も麻黄湯と同じように、汗を出し、体温を上げることにより風邪などを治す漢方薬です。
麻黄湯よりはマイルドですが、比較的強い漢方薬なので実証に使います。
葛根は、項背部といって背中から首肩までが凝ってこわばる症状を改善する効果がありますので、葛根湯は、肩や首のコリがある風邪に効きます。
それ以外には実はあまり効きません。
また、葛根の作用により、葛根湯は、項背部の痛みに効くことがあり、肩こりには重要な漢方薬です。
6 十味敗毒湯:じゅうみはいどくとう
<出典> 華岡青洲
<生薬> 荊芥 防風 独活 樸樕 桔梗 川芎 生姜 茯苓 柴胡 甘草
<証> 虚証~実証 表証 寒証 水毒
十味敗毒湯は華岡青洲が作った漢方薬です。
皮膚疾患の初期、風邪、感染症などで化膿している状態、アレルギーに対して使用されます。
十味敗毒湯は、体質を改善する作用があり、皮膚疾患が起きやすい、風邪を引きやすいなどの体質改善をすることができます。
荊芥、防風、生姜は温める作用があり、寒証に有効です。
桔梗は排膿作用があり、皮膚疾患に効果的です。
防風、独活や茯苓は湿を除去する作用があるため、水毒に効果があります。
7 治打撲一方:ぢだぼくいっぽう
<出典> 香川修庵
<生薬> 桂枝 甘草 川芎 丁香 川骨 樸樕 大黄
<証> 虚証~軽い実証 表証 瘀血
治打撲一方は、文字どおり打撲や骨折などのケガを治すために作られた漢方薬です。
ケガや手術後の痛みにかなり有効です。
また、虚証から実証まで幅広く使うことができ、整形外科の疾患すべてに効果があるまさに万能薬です。
駆瘀血剤でもあるため、便秘や生理痛などの瘀血にも有効です。
ケガをすると局部の気・血の運行が阻害されます。
気の停滞により腫れが生じ、血の停滞により不通則痛の原則により痛みが生じ、また瘀血によりさらに痛みが生じることになります。
瘀血が高度になると皮下出血となります。
川芎、桂枝、大黄は活血薬といって、瘀血が改善し、局部の腫脹と痛みを改善します。
ちなみに、この中では川芎が最も活血作用が強いです。
桂枝は温める作用があり、腫れの改善作用もあります。
大黄は消炎作用とともに瀉下作用があり瘀血に有効です。
丁香は血の運行を改善するとともに健胃作用があります。
川骨も血の運行を改善するとともに止血作用、水毒に対する作用があります。
樸樕と甘草は炎症を改善します。
ケガや手術後には西洋薬では非ステロイド性抗炎症薬を使いますが、副作用として、胃腸にダメージを与えてしまいますが、治打撲一方は逆に胃を保護する作用があり、望ましくよくできた漢方薬です。
8 小青竜湯:しょうせいりゅうとう
<出典> 傷寒論
<生薬> 麻黄 桂枝 甘草 芍薬 半夏 乾姜 細辛 五味子
<証> 虚証~軽い実証 表証 寒証 水毒
小青竜湯は、アレルギー性鼻炎や鼻水・くしゃみに有効な漢方薬です。
気候の寒さなどが体に入り、寒さにより痛みが生じ、また気・血の流れが滞り、不通則痛により痛みが出ることを改善します。
またこれにより水の動きも滞るため、水毒となっていることも改善します。
麻黄、桂枝は温める作用があります。
また、麻黄は利尿効果があり、水毒を改善します
半夏、乾姜、細辛、五味子にも温める作用があります。
また、半夏、乾姜、細辛は水毒にも有効です。
半夏は祛痰効果といって痰を出す効果があります。
細辛は麻酔作用や鎮痛作用があります。
さらに細辛は鼻の症状を伴う表寒証によく効きます。
五味子には鎮咳作用といって咳を止める作用があります。
芍薬には鎮痛作用・鎮痙作用があります。
乾姜、甘草は半夏の副作用を緩和する効果があります。
なお、同じ鼻水でも、黄色い鼻水、口渇、舌が赤い、舌の白苔が黄色い場合には熱があることを意味するため、寒証ではなく熱証であるため小青竜湯を使用してはいけません。
9 薏苡仁湯:よくいにんとう
<出典> 明医指掌
<生薬> 麻黄 甘草 桂枝 当帰 芍薬 蒼朮 薏苡仁
<証> 中間証 表証 寒証 水毒
薏苡仁湯は、リウマチ(漢方では風湿という)を治すために作られた漢方薬です。
薏苡仁湯は、瘀血や水毒にも有効であるが、特に水毒に作用する力がもっとも強い。
麻黄は表寒に有効な漢方薬で温める作用があります。
蒼朮・薏苡仁は水毒に有効です。
薏苡仁には、排膿作用や、熱を下げる作用もある。
芍薬は鎮痛作用があります。
当帰は血液循環を良くする作用があります。