証とは、「その人の現在の状態」のことで、西洋医学でいう病名のようなものです。
この証がわからなければ、その先にある漢方薬の選択ができませんので、証を判定することは非常に大切です。
東洋医学では、四診をし、証を決定します。
四診とは、望診・聞診・問診・切診のことです。
望診とは、顔色、舌、皮膚、動作などを診ることをいいます。
特に舌を診ることを舌診といいます。
西洋医学ではほとんど舌を見ませんが、東洋医学では、舌を重視し、診ます。
聞診は声やにおいを診ることです。
声の大きさ、張りなどを聞いて判断します。
問診は症状、訴えなどの状態を質問し、聞き出すことです。
切診は実際に触ることであり、脈をみる脈診、腹部をみる腹診があります。
一般的に重要性もこの望診・聞診・問診・切診の順であり、望診が最重要といわれています。
ちなみに僕は、望診と問診が重要と考えています。
切診は全くしません。
理由は、主観的な要素が強く本当かな?と思うからです。
こんなことをいうと、漢方の専門家には怒られてしまいそうです。
舌診は東洋医学独自のものです。
舌質といって、赤い舌は熱証、白い舌は虚証。
舌が大きく浮腫んでいるのは水毒。
舌が小さく薄いのは虚証。
舌苔は、舌についている白い苔のようなものです。
この舌苔が薄く白いものは正常ですが、多くなると寒証・気虚・血虚を意味します。
少なくなると虚証です。
黄色い舌苔は熱証です。
舌下静脈とは舌の裏にある静脈のことです。
東洋医学ではここも診ます。
舌下静脈がある程度怒張している場合は瘀血と判定します。
ですが、多くの人は怒張しているので、僕個人としては、舌下静脈の怒張はそれほど重要視していません。
あくまで参考の1つとしています。
また、歯圧痕といって舌の両端に歯型が残っている場合もあります。
これは水毒を意味します。
僕も勉強した当初、そんな舌の人がいるのかな? と思っていましたが、実はけっこういます。
東洋の思想では、光と影のように、相反する2つのものが世界を作っている、と考えています。
光であれば陽。
影であれば陰。
いわゆる陰陽です。
ですから東洋の思想から生まれた東洋医学もこの概念の影響を受けています。
ですから、証もまた、虚・実、寒・熱、表・裏という2つの相反する状態からできています。
そして、これらが組みあわされて存在しています。
具体的には、表と寒が共存していることがあり、表寒といいます。
そして、これらの他、気・血・水という概念があります。
これらを正確に記載するとかなりわかりづらいため、ややニュアンスが異なる部分もあるかと思いますが、わかりやすくご紹介します。
また、日本で発達した日本漢方と、中国で発達した中医学はやや異なりますが、僕は中医学よりです。
実証とは、患者が元気である状態をいいます。
例えば、生来、丈夫で体格も良い状態などです。
また、これとは別に、病気の程度が強い状態のこともいいます。
例えば、高熱が出ている状態などです。
虚証は反対に患者が元気ない状態をいいます。
例えば、生来、あまり丈夫でなく、痩せている状態などです。
病気の程度が弱い状態のこともいいます。
ここで1つ、重要な注意点があります。
実証に使われる漢方薬はどれも強力ですので、実証にしか使ってはいけません。
間違って虚証の人に実証の薬を使ってしまうと、胃痛などの副作用が出やすくなるだけでなく、体調が悪化することが多いので、決して使わないでください。
これが漢方薬を使う際に最も大切なことです。
もう一度言います。
虚証であると判断したときは、決して実証用の漢方薬を使わないでください!
反対に実証の人に虚証用の薬を使うことは可能ですが、そもそも虚証用の薬は効果が弱いため、あまり効きません。
寒証は患者が寒いと言っている状態をいいます。
また、症状が寒いと増悪する状態もそうです。
ただ、手足が冷えていても、患者が寒くないと言えば、寒症ではありません。
熱証は、反対に患者が熱いと言っている状態をいいます。
また、症状が熱いと増悪する状態もそうです。
表証は、体表部に症状がある状態をいいます。
あるいは、急性期、病気の初期もそうです。
整形外科領域である四肢は基本的には表証です。
裏証は、反対に身体の深部に症状がある状態をいいます。
あるいは、慢性期もそうです。
内臓は基本的には裏証です。
東洋医学には重要な概念として、気・血・水があります。
気は一言でいうと、「生命活動を営む根源的エネルギー、いわゆる “元気 ”の“気”」のことです。
気虚は、全身の倦怠感、意欲低下、精神的・肉体的疲れなど、生命エネルギーが減少した状態をいいます。
気鬱は、抑うつ傾向など、気がうっ滞・停滞した状態のことです。
典型的にはのどや気管のあたりが詰まったような感じ、です。
西洋医学のうつにも近い状態です。
気逆は、気が通常の循環ではなく、逆流した状態のことです。
冷えのぼせと言って、上半身に熱感、下半身に冷感がある状態などが特徴です。
気虚は病気などが慢性化した場合になることが多く、ある程度長引いている病ではかなり存在します。
僕の経験上、気虚に対する漢方薬である補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は全ての漢方薬の中で最も処方することが多く、そして最も効く漢方薬です。
気逆は女性によく見られる証です。
特に更年期の女性には多く、更年期の女性であれば気逆と考え、加味逍遥散(かみしょうようさん)が効く可能性が高いです。
というわけで、僕が最も使う組み合わせは、補中益気湯+加味逍遥散です。
重要な概念、気・血・水のうち、血についてです。
ちなみに「けつ」と読みます。
血は「生命を物質的に支える赤色の液体」のことで、西洋医学の“血” とほぼ同じ意味です。
血虚は、血が不足した病態のことです。
不眠、動悸、血色不良、やせ、めまい、目のかすみ、肌荒れ、抜け毛、手足のしびれなどが症状です。
瘀血(おけつ)は、漢方独自の概念で、「血の流れが滞った状態」を意味します。滞る場所は、四肢末端のこともありますし、内臓のこともあります。
東洋医学では、瘀血は痛みを生じると考えます
特に、刺すような痛みを発生させます。
打撲などの結果の内出血、血管がつまる梗塞や血栓が瘀血となります。
このほか、生理痛は東洋医学では、骨盤内で血が滞ったと考えるため、瘀血となります。
また、便秘も同じく骨盤内での血の滞りですので、瘀血であることが多いです。
そのため、瘀血を改善させる漢方薬である「駆瘀血剤」と呼ばれる漢方薬群が生理痛や便秘に良く効きます。
このことはそのうち詳しくご説明します。
なお、舌診で舌の裏を見て、舌下静脈が怒張している状態も瘀血ですが、参考程度としてください。
重要な概念、気・血・水のうち、水についてです。
ちなみに「すい」と読みます。
水は、「生命を物質的に支える無色の液体」のことですが抽象的ですね。
分かりやすく言うと、組織液、リンパ液など“血 ”以外の水分すべてのことです。
水毒(あるいは水滞)は、「水の停滞・偏在があり、多くなってしまっている状態」のことです。
水様性の鼻汁、喀痰、下痢、浮腫、胸水・腹水、尿量異常(減少、過多)、耳鳴り、嘔吐などが症状です。
舌診で舌の脇を見て、歯圧痕(歯型が舌に残っている)があれば、有力な水毒のサインです。
証がわかったところで、次は証の選択です。
1 寒証
典型的な症状
① 症状は寒いと増悪する
② クーラーが苦手
③ 症状は風呂に入ると改善する
④ 最近、悪感がする
⑤ 症状は冬に増悪する
2 熱証
典型的な症状
① 症状は暑いと増悪する
② 症状は風呂に入ると増悪する
③ 症状は冷やすと改善する
④ 症状は夏に増悪する
となります。
1 気虚
典型的な症状
① 最近、疲れやすい
② 最近、元気がない
③ 最近、集中力が低下している
④ 最近、寝汗が多い
⑤ 最近、食欲不振
⑥ 最近、やる気が低下している
⑦ 最近、日中、眠い
⑧ 最近、眠れない
⑨ 最近、目が乾燥する
2 気鬱
典型的な症状
① 最近、喉の奥がつかえる感じがする
② 最近、腹部膨満感がある
③ 最近、不安感が強い
④ 最近、朝、早く目が覚める
⑤ 最近、抑うつとした気分である
3 気逆
典型的な症状
① 最近、イライラする
② 最近、下半身が冷えて、上半身がのぼせる気がする
③ 最近、突然、顔が赤くなる
④ 最近、突然、嘔気がする
⑤ 最近、突然、動悸がする
となります。