内服治療や外用剤、局所注射など、外来で一般的に行われる治療法が有効でない難治症例に対して、直漢法と通常法(医師が患者を診察し、証を判定し、証に対応する漢方薬を選択し治療する方法)の治療効果を比較しました。
結果、直漢法と通常法の治療成績には統計学的に有意差がなく同程度でした。
つまり、一般に行われている治療法である通常法と同程度に直漢法が有効である、ということになります。
さらに、漢方薬を選択してから症状が改善するまでの期間は、通常法より直漢法が有意に短く、より早く治療効果をあげることができることがわかりました。
益子竜弥ほか 北海道整形災害外科学会誌、57巻、2015
つまり、直漢法は、一般的に治療が難しい状態である難治性症例に対し、通常法と同等の治療効果があることに加え、より短い期間で治療効果をあげることができる、という結果になり、極めて画期的な漢方薬の治療方法であることが示されたことになります。
なぜ、このように良い結果になったのでしょうか。
いくつかの要因があると考えてます。
1つ目は、実際に直漢法が効果的だった、ということです。
直漢法により患者さんが選択した漢方薬と、筆者が選択した漢方薬がどれくらい一致
するかを評価しています。
それによると、一致する確率は計算上では4.5%です。
しかし、直漢法を使用して実際に一致した確率は、なんと31.4%でした。
つまり、ある程度漢方薬に対する知識・経験がある医師と、初めて漢方薬を選択する患者さんの判断が、実に31.4%も一致する、という驚きの結果でした。
このことからも、直漢法は有効であったと考えられます。
2つ目は、placebo analgesia(プラセボ鎮痛)です。
Placebo analgesia(プラセボ鎮痛)とは、薬剤に対し、患者さんが効果を「期待」することにより、脳の内因性オピオイド系やドパミン作動系報酬機構が働くことにより鎮痛作用を起こす効果のことです。
直漢法を用いることにより、患者さんが自分で選んだ漢方薬が効くことを「期待」することにより、鎮痛効果が起きた、ということです。
3つ目は、「一貫性の原理」です。
実は直漢法は心理学を応用して作成しています。
「一貫性の原理」とは、心理学の1つで、「人は自分の行動、発言、態度、信念、価値観などに対して一貫したいという心理が働く」という原理のことす。
一貫性を保つことで人間社会において高く評価されるため、このような原理が働くと考えられています。
この原理を応用すると、医者が選んだ薬には一貫性の原理は働かないが、患者さんが自分で選んだ薬に対しては、自分の選択と結果を一致させるという一貫性の原理が働き、「薬の効果をより強く期待する」ことにつながり、これによりplacebo analgesia効果がさらに発揮され、症状がさらに改善したと考えられます。
益子竜弥ほか 北海道整形災害外科学会誌、57巻、2015
上記のほか、もう1つ、直漢法の結果に影響を与えた要素があります。
それは、「患者さんは、医者以上に、自分のことを知っている」ということです。
「当たり前」
と思われ方もおられるかもしれませんが、「患者さんの体や病気のことを一番知っているのは、医者」と考えている医療関係者は多いと思います。
ぼくはそうは思いません。
「患者さんの体を一番知っているのは、患者さん自身」
と思っています。
ですから、「患者さんが自分で漢方薬を選択する」という直漢法を作りました。
そして、予想以上の効果がありました。
直漢法では、女性は52、男性は48の質問に答えてもらい、そのうえで、「証」を判定してもらいます。
これらの患者さんの状態を本当に知っているのは、誰でしょうか?
もちろん、医者ではなく、患者さん自身です。
外来で短時間しか診察することのできない医者と比べ、患者さんは24時間365日、自分の体と一緒です。
ですから、「患者さんの体を一番知っているのは、患者さん自身」と僕は考えています。
一番体のことを知っている人が漢方薬を選ぶのだから、良好な効果があった。
そう考えています。