補剤

1 人参:にんじん

<対応する証> 虚証、気虚

<神農本草経> 上品

<東洋医学的効能> 健脾補肺、益気生津、大補元気、扶正祛邪

<西洋医学的薬理作用> 抗炎症作用、強壮作用、呼吸促進、副腎皮質機能強化、血管拡張作用、血小板凝集抑制作用、線溶活性化作用、赤血球変形能亢進作用、血糖低下作用、マクロファージ活性化作用、NK細胞活性化作用、抗体産生能促進作用、抗アレルギー作用、抗ウイルス作用、抗肝炎作用、睡眠改善作用、性腺機能促進作用

<代表的な漢方薬> 人参湯、人参養栄湯、六君子湯、補中益気湯、十全大補湯、呉茱萸湯

 

人参は、五臓を補う作用がありd、また、精神を安定させる作用もあります。

健脾補肺・益気生津といって、中焦に属する脾や肺の気を補うことにより、気虚を改善します。

大補元気といって、病気や出血などで体力が急激に低下したときに、気を補い虚脱状態から改善する作用があります。

扶正祛邪といって、正気を補い、病気に対する抵抗力を強化する作用があります。

 

2 黄耆:おうぎ

<対応する証> 虚証、気虚、血虚、水毒

<神農本草経> 中品

<東洋医学的効能> 固表止汗、補中益気、補気生血、消水腫、托毒排膿

<西洋医学的薬理作用> 抗炎症作用、強壮作用、利尿作用、血管拡張作用、血圧降下作用、アンジオテンシン酵素阻害活性、抗アレルギー作用、抗菌作用、肝障害予防作用、老化遅延作用、DNA合成促進作用、インターフェロン誘起作用、マクロファージ貪食能増強作用

<代表的な漢方薬> 補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯、防已黄耆湯

 

黄耆は、固表止汗といって、虚証に伴う自汗(何もしなくても自然に汗が出る状態)を止める作用があります。

補中益気とは、中焦である脾・胃の虚弱を気を補うことで改善するという意味です。

補気生血とは、気を補う結果、血が生成され、血虚が改善する、という意味です。

消水腫とは、頭部、四肢の水毒を利尿作用にて改善するという意味です。

托毒排膿とは、感染し膿が出ている状態を改善するという意味です。

 

3 白朮:びゃくじゅつ

<対応する証> 虚証、気虚、血虚、水毒

<神農本草経> 上品

<東洋医学的効能> 腱脾燥湿、益気生血、和中安胎

<西洋医学的薬理作用> 抗炎症作用、強壮作用、鎮静作用、利尿作用、血管拡張作用、血圧降下作用、血小板減少症抑制作用、抗菌作用、子宮収縮抑制作用、利胆作用、肝保護作用、抗胃潰瘍作用、抗ストレス作用、胸腺萎縮抑制作用、副腎皮質ホルモン増加作用、マクロファージ貪食活性作用、細胞性免疫亢進作用、抗ガン作用

<代表的な漢方薬> 補中益気湯、六君子湯、人参養栄湯、十全大補湯、五苓散、桂枝加朮附湯、二朮湯

 

白朮は腱脾燥湿といって、中焦の脾の水毒を改善する作用があります。

益気生血とは、中焦の脾の機能を改善することにより、気虚が改善し、これにより血虚も改善するという意味です。

和中安胎とは妊娠は胎児を生育させるため、普段より多くの血が必要となり、その際には中焦である脾の機能が重要となるため、脾の機能を改善することにより胎児が良好に育つことを意味します。

 

4 山薬:さんやく

<対応する証> 虚証、腎虚、肺虚

<神農本草経> 上品

<東洋医学的効能> 腱脾胃、益肺気、強腎固精、治帯下

<西洋医学的薬理作用> 抗炎症作用、滋養作用、強壮作用、免疫賦活作用、マクロファージ活性化作用、男性ホルモン様作用、血糖降下作用

<代表的な漢方薬> 六味丸、八味地黄丸、牛車腎気丸

 

山薬はヤマイモ(トロロイモ)のことで、滋養強壮作用があることが一般に知られていることと思います。

精がつく、とも言われていますね。

実際、そのとおりです。

 

山薬は、腱脾胃といって、脾や胃の虚を改善する作用があります。

益肺気は、脾・胃を改善することにより、肺を補益することにより、肺虚を改善する、という意味です。

なお、肺虚の症状は、息切れがする、話すのが億劫、などです。

強腎固精とは、腎虚を改善する作用があるという意味です。

治帯下とは、帯下は脾・腎虚+水毒により下焦に水がたまることによって生じます。山薬はこれを改善する作用があります。

 

5 甘草:かんぞう

<対応する証> 虚証

<神農本草経> 上品

<東洋医学的効能> 補脾益気、解毒清熱、緩急止痛、潤肺(祛痰止咳)、調和薬性

<西洋医学的薬理作用> 抗炎症作用、解熱作用、鎮静作用、鎮痙作用、鎮咳作用、抗アレルギー作用、抗消化性潰瘍作用、胆汁排泄促進作用、ステロイドホルモン様作用、エストロゲン様作用、テストステロン産生抑制作用、フィブリン溶解活性亢進作用、肝障害予防作用、インターフェロン誘導作用、抗菌作用、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用

<代表的な漢方薬> 芍薬甘草湯など

 

甘草は漢方薬に最も含まれる生薬です。

一般用漢方薬210種類中、150の漢方薬に配合されています。

甘草を摂りすぎると偽性アルドステロン症となり、低カリウム血症、高血圧、浮腫などになるので注意が必要です。

特に芍薬甘草湯は甘草の量が多いので、注意してください。

 

甘草は、補脾益気といって中焦である脾の気虚を改善します。

生の甘草は清熱解毒作用があり、特にジフテリア、破傷風、フグ、蛇毒に解毒作用があります。

緩急止痛とは、急(痙攣・収縮・緊張の意味)を緩めるという意味であり、筋肉の痙攣(こむらがえりなど)や胃腸の平滑筋の痙攣を緩和します。

潤肺とは、文字通り肺を潤すことで、肺熱による咳嗽を改善します。

調和薬性とは、配合された他の生薬の作用を緩和することであり、寒性薬、熱性薬、瀉下薬などの作用を急激に起こすことなく、緩やかに効果が出るようにします。

この作用から、甘草は多くの漢方薬に配合されています。

 

6 大棗:たいそう

<対応する証> 虚証

<神農本草経> 上品

<東洋医学的効能> 補脾和胃、強健脾胃、保護脾胃、補養強壮、調和薬性

<西洋医学的薬理作用> 鎮静作用、抗ストレス作用、抗アレルギー作用、抗消化性潰瘍作用、血液凝固抑制作用、アルドースリダクターゼ阻害作用

<代表的な漢方薬> 補中益気湯、六君子湯など多数

 

大棗は、滋養強壮のために使用されます。

補脾和胃・強健脾胃・保護脾胃など脾や胃を補い活性化する作用があります。

また脾や胃を補うことにより強壮作用があります。

甘草と同様に、調和薬性といって、配合された他の生薬の作用を緩和し、寒性薬、熱性薬、瀉下薬などの作用を急激に起こすことなく、緩やかに効果が出る作用があります。

 

7 地黄:ぢ(じ?)おう

<対応する証> 血虚、肝腎陰虚

<神農本草経> 上品

<東洋医学的効能> 補血生精、滋腎養肝

<西洋医学的薬理作用> 抗炎症作用、鎮静作用、血糖降下作用、糖代謝酵素活性化作用、抗血管内凝固作用、線溶活性化作用、瀉下作用、利尿作用、免疫抑制作用、心房機能抑制作用、タンパク質代謝促進作用、抗ガン作用

<代表的な漢方薬> 四物湯および四物湯関連処方、六味丸、八味地黄丸、人参養栄湯、消風散、竜胆瀉肝湯

 

地黄は、補血生精といって血虚を補う作用があります。

四物湯は血虚を改善する有名な漢方薬で、地黄のほか、当帰、芍薬、川芎で構成されます。

 

滋腎養肝とは肝腎陰虚に効果があるという意味です。

肝腎陰虚の症状は、腰や膝がダルくて痛む、足に力が入らない、物が暗く見える、視覚・聴覚が低下する、月経不調などです。


 8 当帰:とうき

<対応する証> 血虚、瘀血

<神農本草経> 中品

<東洋医学的効能> 補血、活血、潤腸通便

<西洋医学的薬理作用> 解熱作用、抗炎症作用、鎮痛作用、鎮痙作用、中枢抑制作用、筋弛緩作用、血管拡張作用、血圧降下作用、末梢血管拡張作用、血液凝固抑制作用、血小板凝集抑制作用、抗血栓作用、抗アレルギー作用、免疫賦活作用、抗腫瘍作用、肝障害予防作用、抗菌作用、子宮の機能調整作用

<代表的な漢方薬> 四物湯および四物湯関連処方、補中益気湯、当帰芍薬散、温経湯、女神散

 

当帰は、「婦人病の要薬」といわれ、婦人科領域で良く使用される生薬です。

おもに血虚と、弱いながら瘀血に効果があります。

 

補血とは、血を補うという意味で、血虚に有効です。

出産などによる失血も血虚となります。

 

活血とは、瘀血を改善するという意味です。

当帰は強くはありませんが、活血作用があります。

 

潤腸通便とは、血虚による乾燥した腸を潤すことにより、便通を改善する、という意味です。

 

9 芍薬:しゃくやく

<対応する証> 血虚

<神農本草経> 中品

<東洋医学的効能> 補血養陰、養血栄筋、緩急止痛

<西洋医学的薬理作用> 解熱作用、抗炎症作用、鎮静作用、鎮痛作用、鎮痙作用、筋弛緩作用、内臓平滑筋弛緩作用、神経筋接合部遮断作用、睡眠時間延長作用、血小板凝集抑制作用、血管拡張作用、抗アレルギー作用、免疫賦活作用、抗胃潰瘍作用、肝障害予防作用、抗菌作用

<代表的な漢方薬> 芍薬甘草湯、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、桂枝加朮附湯

 

芍薬は、補血養陰といって、血虚を改善し、陰液(水分)を補う作用があります。

 

養血栄筋とは、血虚を改善することにより、筋肉の萎縮を改善することにより、筋肉の痙攣、関節のこわばりなどを改善するという意味です。

 

緩急止痛、甘草と同じように、急(痙攣・収縮・緊張の意味)を緩めるという意味であり、筋肉の痙攣(こむらがえりなど)や胃腸の平滑筋の痙攣を緩和します。

芍薬は特に腹痛に有効です。

 

芍薬のうち、白芍は血虚に有効で、赤芍は瘀血に有効です。

 

10 麦門冬:ばくもんどう

<対応する証> 乾燥

<神農本草経> 上品

<東洋医学的効能> 滋陰潤肺、潤肺利咽、養陰清心、生津益胃

<西洋医学的薬理作用> 鎮咳作用

<代表的な漢方薬> 麦門冬湯、温経湯、釣藤散

 

麦門冬は、滋陰潤肺といって、陰液(津液、水分のこと)を補う作用があります。

これは陰虚肺熱といって肺の炎症により陰液が不足した状態に効果があります。

また、潤肺利咽といって、肺の熱により声がかれて出ないなど咽頭の症状がある場合にも有効です。

 

養陰清心とは、陰液を補うことにより心陰虚を改善するという意味です。

心陰虚の症状は、動悸、落ち着かない、不眠などです。

 

生津益胃は、陰液を補うことにより、胃虚を改善するという意味です。

胃虚の症状は、口と咽が渇き、食欲不振となることです。

 

11 牛膝:ごしつ

<対応する証> 肝腎陰虚、瘀血

<神農本草経> 上品

<東洋医学的効能> 補肝腎、散瘀血、引薬下行

<西洋医学的薬理作用> 抗炎症作用、鎮痛作用、血圧降下作用、子宮収縮増強作用、成長促進作用、タンパク質合成促進作用、抗アレルギー作用、肝障害抑制作用、抗ガン作用

<代表的な漢方薬> 牛車腎気丸、疎経活血湯、大防風湯

 

牛膝は、補肝腎といって、地黄のように肝腎陰虚を改善する作用があります。

肝腎陰虚の症状は、腰や膝がダルくて痛む、足に力が入らない、物が暗く見える、視覚・聴覚が低下する、月経不調などです。

 

散瘀血とは、瘀血を改善するという意味です。

 

引薬下行とは、薬効を下半身に集中させるという意味ですので、牛膝は腰や膝など下半身の疾患によく使用されます。

 

12 山茱萸:さんしゅゆ

<対応する証> 肝腎陰虚、腎虚

<神農本草経> 中品

<東洋医学的効能> 補肝腎、止頻尿

<西洋医学的薬理作用> 抗炎症作用、免疫賦活作用、血糖降下作用、インスリン分泌促進作用、脂質過酸化抑制作用、脂肪分解抑制作用、抗ヒスタミン作用、血小板凝集抑制作用、溶血性貧血改善作用、低血圧改善作用、肝障害改善作用、利尿作用、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用

<代表的な漢方薬> 六味丸、八味地黄丸、牛車腎気丸

 

山茱萸は、地黄、牛膝と同じく補肝腎の作用があり、肝腎陰虚を改善する作用があります。

肝腎陰虚の症状は、腰や膝がダルくて痛む、足に力が入らない、物が暗く見える、視覚・聴覚が低下する、月経不調などです。

 

止頻尿とは腎虚を改善することにより、夜間頻尿を改善するという意味です。

 

13 竜骨:りゅうこつ

<対応する証> 陰虚陽亢

<神農本草経> 上品

<東洋医学的効能> 平肝潜陽、鎮静安神

<西洋医学的薬理作用> 不詳

<代表的な漢方薬> 柴胡加竜骨牡蠣湯、桂枝加竜骨牡蠣湯

 

竜骨は、恐竜の化石です。

主な成分は炭酸カルシウムです。

それ以外の成分もありそうですが、はっきりしません。

牡蠣と同じく精神安定化の目的で使用され、牡蠣と共に使用されます。

 

陰虚陽亢とは、陰虚がかなり亢進した状況です。

不眠、煩燥、めまいなどが症状です。

竜骨は、平肝潜陽といって、この陰虚陽亢を改善する作用があります。

 

鎮静安神とは、心虚を改善し、精神的に落ちつかせる作用があるという意味です。

心虚の症状は、驚きやすい、動悸、不眠、寝ているときに驚いて目が覚めやすい、などです。


 14 牡蠣:ぼれい

<対応する証> 陰虚陽亢

<神農本草経> 上品

<東洋医学的効能> 益陰潜陽、益腎養陰、解渇、清熱

<西洋医学的薬理作用> 鎮痛作用、中枢抑制作用、抗痙攣作用、制酸作用、免疫増強作用

<代表的な漢方薬> 柴胡加竜骨牡蠣湯、桂枝加竜骨牡蠣湯

 

牡蠣は、カキの殻のことです。

竜骨と同じく精神安定化の目的で使用され、竜骨と共に使用されます。

 

牡蠣には、竜骨と同じく陰虚陽亢を改善する作用があり、それが益陰潜陽です。

益陰潜陽は、陰虚を補うことにより、亢進した陽を抑えるという意味です。

なお、陰虚陽亢とは、陰虚がかなり亢進した状況で、不眠、煩燥、めまいなどが症状です。

 

益腎養陰・解渇は、腎陰虚を改善し、その結果、夜間の口渇などを改善するという意味です。